「弓削田さん、お客さんよー」
背中から声をかけられて、
おばあちゃんが車椅子ごしに振り返った。
「おー健ちゃんやんね」
「おばあちゃん、定位置やねぇ、前来た時もここからテレビ見よったやん!」
そういえばKBCの番組も、施設のみんなで観てくれたんよね。この斜め45度の角度から…
30分も時間がないので早速、最近お気に入りのミニギターをとり出して、ポロロンと鳴らした。
施設の人がそれを聴いて、みなさーんコンサートがはじまりますよぉ、とパタパタと声をかけはじめてくれている。
「健ちゃんギター、変わったっちゃないと?」
時々かわいいボケが入るおばあちゃんなのに、前来た時とギターが変わったことには気づくんだなぁ。
テレビの近くにいた人たちと「愛燦々」を歌っているうちに、少しずつみなさんが集まってきた。
「見上げてごらん夜の星を」「上を向いて歩こう」は、みんなで歌った。
コンサートと言うより、小学校の教室みたいな感じ。
一緒に歌っている時に目が合うと、嬉しいね。
施設の人がみなさんに「弓削田さんのお孫さんよ」って紹介してくれて、おばあちゃん、嬉しそう。嬉しそうなおばあちゃんを見ると、僕も嬉しい。
音楽やってて、良かったぁ。
歌ってて、良かった。
続けていられるのは、色んな人が助けてくれるけんなんよ。
今年はいっぱい曲、作るけん。
そのうち作った曲も、聴いてね。
おばあちゃんが、うなずく。
またね、おばあちゃん。
相変わらずの笑顔、ありがとう。
次来るときまで、お互い、元気で。