ライアーの音色が
20人の心を遠い国に誘って
その音がなりやんだ時
大きな拍手がマリーを包んだ。
ミュージカル女優を目指して
この街を出たマリーは
東京でシャワーもないアパートを借り
銭湯に通いながら
バイトをしたり
お笑いの劇団で丸坊主になったり
夜の店で歌ったりしながら
夢を追いかけていた。
電話した時に
「スタジオ借りれないから
多摩川の土手で練習しています」
と言っていたこともあった。
しばらくして佐賀に帰って来た時。
「応援してくれた人たちに会わせる顔がない」
なんて言っていたから、
「そんなことないよ。みんなマリーと一緒に夢を見させてもらえていたんだから」と話したけど、僕が思っている以上に、マリーの心は「ボロボロだった」と後から聞いた。
素敵な旦那さんに出会って
マリーは元気を取り戻したように見えた。
そして、ライアーという小さなハープみたいな楽器を始めた、
と人づてに聞いた。
「こころを何に例えよう
一人道行くこのこころ
こころを何に例えよう
一人ぼっちのさみしさを」
2曲目が始まった。
10代の時からミュージカルの主役を演じ
いくつものステージの上から
輝く笑顔と歌声で元気を届けて来た
鍛え上げた力強い歌声がいま、
こんなにも儚く、
やさしい音楽に姿を変えて、
みんなの心を包んでいる。
その姿は、
天使のようだった。
天使は、そのへんにパタパタ飛んでいるのではなくて、
がんばってがんばって、傷つきながらも純粋な気持ちを捨てない、強くて優しい人の心に宿る美しい一瞬の奇跡のことを言うんじゃないか、と思った。
あくまでも、一瞬の。だけど。
だって演奏終わったら、
ただのドジで愉快なマリーに戻るから。
あはは
三月もがんばろうっと。